第三回利用可能性ヒューリスティックとは?M.H.ベイザーマン D.A.ムーア理論解説
2021/02/14
第三回利用可能性ヒューリスティックとは?
目次
1.利用可能性ヒューリスティック恐ろしくて、面白い話
2.利用可能性ヒューリスティックあなたのお得になる話
3.利用可能性ヒューリスティック新型コロナの場合
1.利用可能性ヒューリスティック恐ろしくて、面白い話
人の思考は「きっちり論理的思考」と「惰性で流され処理」に分かれますが、じつは「惰性で流され処理」の方が多用されています。
なぜならそれが楽だからです。
これをヒューリスティック処理とも言いますが、人が多用するヒューリスティック処理がわかれば人の心を読むことがたやすくなります。
これが利用可能性ヒューリスティックです。
ここでは恐ろしくて、面白い話をします。
江戸時代、罪人(極悪)は首を切られる死罪でした。
ここでは死罪になる人は男女半々だったと仮定して話を進めます(実際は「見つかる犯人」は男が多かった。)
江戸のあちこちに処刑場がありましたが、その中には「大きな処刑場」と「小さい処刑場」があります。
「大きな処刑場」の処刑数は毎日4人です。
「小さい処刑場」の処刑数は毎日2人です。
死罪になる人は男女半々だったと仮定すると、おんなばかりが殺される日の多い処刑場は、次のうちどちらでしょうか?
1.男女半々だったいうと仮定から、どちらも同じ
2.「小さい処刑場」の方がおんなばかりが殺される日が多い
答えは2です。
なぜあなたが1を選んでしまったのかというと、確率を正しく理解できていないからです。
検証してみます。
「大きな処刑場」と「小さい処刑場」で、どちらも処刑される罪人は次のパターンだったとしましょう。
『男男女男女男女女男女男女女女男男』
すると「大きな処刑場」は毎日4人死にますので
(男男女男)(女男女女)(男女男女)(女女男男)
「大きな処刑場」は4日のうち(女だけが処刑される日)0
ところが、「小さい処刑場」は毎日2人死にますので
(男男)(女男)(女男)(女女)(男女)(男女)(女女)(男男)
「大きな処刑場」は8日のうち(女だけが処刑される日)2
だから計算すると、「大きな処刑場」は(女だけが処刑される日)確率は0%
「小さな処刑場」は(女だけが処刑される日)確率は25%
こういう意外な結果になります。
私たちは「確率」の正しい姿を認識できません。
これが都市伝説という誤った印象を造ってしまう原因なのです。
「小さな処刑場」では(女だけが処刑される日)の確率は25%にもなります。
もっと大きな前提で、男女の比率は同じだとわかっていても、私たちは個別のショッキングな印象に引きずられてしまうのです。
利用可能性ヒューリスティック
だからこれを「死ぬ」ではなく「産まれる」にすると、都市伝説を創ることができます。
※「あそこの個人産婦人科病院では、圧倒的に女の子が生まれる確率が高い」
これに近い噂を、あなたも聞いたことがあるでしょう?
これは利用可能性ヒューリスティックが創る都市伝説です。
学術用語でこれをサンプルサイズと言います。
サンプルサイズは大きい方が真実に近いのです。
都市伝説はたいてい、サンプルサイズの小さいことを拡大解釈しています。
2.利用可能性ヒューリスティックあなたのお得になる話
あなたのお得になる話をしよう
宝くじである
これはそんじょそこらの宝くじとは、ワケが違う
1000人に1人の割合で当たるのだ
しかも賞金は1000万円
どうだろう?
これが一口一万円なら、あなたも買いたいと思わないはずがない!
さてこの宝くじは変わった選別の仕方をします。
それは二段階選抜である
まず、本番の当選者発表の前に、予備当選発表がある
予備当選に入っていると、70%で1000万円が手に入る
それでは予備当選に入っていない人には、もうチャンスはないのだろうか?
そうではない
残り30%は、敗者復活当選がある
例えばこの宝くじが10万人に一人一口で売れたとしよう
1000人に1人の割合で当たるのだから、絶対に100人は大金を手にできる
10万人のうち、0.1%は幸運の持ち主になれる
だとすると、予備当選合格者の数は100人になるだろう
100人のうち70人が1000万円が手に入る
自動的に敗者復活当選者は30人になる
これで計算が合う
ここで考えてください。
あなたが購入した宝くじは、ラッキーなことに!予備当選に入っていた
あなたには何パーセントの確率で、1000万円が手に入るだろうか?
考えるまでもない
70%である
じつはこの文章は正しくないのです。
確率というのは、こういう考え方ではないのです。
しかし、普通の人にとって確率というのは、まさにこういう考え方を指します。
サンプルサイズの小さいことを拡大解釈するという過ちを導きかねないのです。
こういう正しくない知識が、あなたを狂った認識に導いている可能性が非常に高いです。
怖ろしい話をします!
先の宝くじは存在しないが、これに似たものが現実には存在します。
それはPCR検査。
PCR検査が正しい判定結果を出すかどうかは、「正しくは」わかっていないのです。
今のところ、60から70%だと言われています。
それに対し、日本に新型コロナの感染者数は2020年9月1日時点で、69150人です。
しかしじつは、これは正しくないのです。
PCR検査陽性の判定結果が、69150人なのであって、感染者数ではありません。
じつはPCR検査が正しい判定結果を出すかどうかは、確率60から70%だと言われているのです。
だから69150人のうち、少なくとも30%は「関係ない人」なのです。
先の宝くじの話で、一次発表に当選しても1000万円手に入らない人が30%いたのと同じなんです。
※ここからが面白いところ
2020年に猛威をふるった中国初の新型コロナウイルス肺炎
あまりに話題にならないが、PCR検査「陰性」でも感染している人がいると報告されている
この数はよくわからないが、かりに10万人に30人だとしよう
この人達は言ってみれば、宝くじの敗者復活当選者と同じ人だ
PCR検査とは宝くじで言うと、予備当選発表なのである
予備当選発表だから「必ず1000万円手に入るのではない」
PCR検査も陽性者が「必ず新型コロナ感染者なのではない」
3.利用可能性ヒューリスティック新型コロナの場合
実際のところはどうなのでしょうか?
ある医療機関の説によると「日本国民913人に1人が感染状態にある可能性がある」と報告されています。
これを信頼して、約1000人に1人、つまり0.1%が感染状態にあると仮定します。
これは日本人口1.265億人に対して0.1%が感染状態にあるという意味です。
これが最も基本的な話です。
「基本的な話」というのは、産婦人科で生まれる男女割合は50%・50%というような、誰が見てもそうだと思うようなことを言います。
しかし思い出してほしいのです。
人間は確率の姿を正しく認識できないので、「あの個人病院は女の子ばかり産まれる」というような誤った結論に至ることが多いのです。
これは木を見て森を見ないということから生まれる誤りです。
この場合で言うと、森を見るというのは、生まれる男女割合は50%・50%というような、誰が見てもそうだと思うようなことを言います。
『森を見る』という方が、常に正しいのです。
※繰り返すが人は「木を見る方が正しい」と思いやすい
新型コロナの場合「森を見る」というのは、日本人口1.265億人に対して0.1%が感染状態にあるというのを指します。
つまり何が言いたいかというと、あなたが思う正しいと思うことは間違っていると思うべきなのということです。
確率に関しては、そういう場合が非常に多いのです。
確率に関してあなたが正しい結論を出せる可能性は、ないと思った方がいいのです、じつは。
さて、これらの知識を踏まえて、次の文章を読んでください。
難しく感じるのであれば、最後の辺りだけは読んでください。
引用
「では、神奈川県の伊勢原市で市民全員にPCR検査を実施すると仮定しましょう。
伊勢原市の人口は約10万人。有病率は0.1%ですから、10万人のうち100人が感染者で、残る9万9900人は感染していないということになります。(ここが森)
10万人の市民全員にPCR検査を実施しました。
PCR検査の感度は70%ですから、100人の感染者のうち70人は陽性に出ます。
一方、30人は陽性にはなりません。この人たちは感染しているのに検査結果は陰性なのです。
しかし、9万9900人の感染していない人も全員が検査を受けています。
PCR検査の特異度は99%ですから、このうち1%(つまり999人)は病気でないにも関わらず陽性と診断されてしまうということになります。
10万人の検査を実施して、結果が陽性になるのは、実際に感染している100人のうちの70人と、感染していない9万9900人のうちの999人。合わせて1069人です。
しかし、この中で実際に感染していたのは70人だけですよね。
検査結果が陽性になった人のうち、わずか6.5%しか本当の感染者がいない、ということになります。
伊勢原市では、70人の感染者に加えて、実際にはコロナに感染していない999人も病院やホテルに2週間は隔離することになります。
場合によってはアビガンなどの副作用の強い薬が投与されるかもしれません。
そして、その家族も濃厚接触者とされ自己隔離、職場の人や友人たちも不安な思いをしなければならないかもしれません。
さらに、自治体や国は、この999人分の隔離にかかる費用を負担しなければなりません。」
おそらく全体像をよく理解できないと思いますが、その原因は「実際に感染している100人のうちの70人」にばかり目が行くことにあります。
これが「木だけを見ている状態」なのです。
しかし基本部分、つまり「森を見る」部分は誰にでもわかることです。
「日本人口1.265億人に対して0.1%が感染状態にある」ということです。
日本人口1.265億人に対して伊勢原市の人口10万人なら、その0.1%が感染状態にあります。
伊勢原市の推定感染者は1000人、これがいちばん真実に近いのです。
森を見るならこれが答えです。
そのうち全員PCR検査して100人があぶり出される
しかもその100人のうちの70人が感染者である
これは「感染者である確率が70%の人」が見つかるわけで、発症しない限り本当にそうであるかは誰にもわからないのです。
太陽の光を当てみるまで、ドラキュラであるかどうかはわからないのとじつは似ているのです。(問題発言?)
そして全員PCR検査して見つけられない人が、1000人-70人で930人もいるのです。
すなわちこれが、2020年5月ぐらいにテレビでさかんに全員PCR検査するべきと言っていたのに
医療関係者の中にそれには意味がないという少数者がいた理由なのです。
私たちは都市伝説が好きです。
それは感情を揺さぶる事柄が強く印象に残るからである
これこそが、利用可能性ヒューリスティックです。
そのような「感情を揺さぶる強く印象に残る事柄」こそが『正しいと信じたい心の仕組み』のために
「あの個人病院は女の子ばかり産まれる」というような誤った結論に至るのです。
これもヒューリスティック処理が私たちに誤った結論を出させる証拠です。
しかもそれはテレビ局や新聞記者・コメンテーターなどに蔓延しています。
日本を滅ぼしかねない怖ろしい病なのです。
*******
人は自分の思考に自信があって、いつも正しい選択ができているはずだと思っています。
まさか自分が愚かな選択をしているとは、思いたくないのです。
そして正しい選択のためにきちんと論理的に、いつも正しく考えていると思いこんでいます。
そのような「正しい選択のためにきちんと論理的に考えるやり方」を、システマティック思考といいます。
しかし本当は、数多くのヒューリスティック処理に流されているのでした。
2020年5月ぐらいにテレビでさかんに全員PCR検査するべきと言っていたのですが、これの筆頭にテレビ朝日の玉川徹氏がいました
彼がテレビ番組で尾身 茂 新型コロナウイルス 感染症対策専門家 会議副座長と、国民全員PCR検査するべきかどうかで議論を交わしました
その時、尾身氏は玉川徹氏の理解力のなさに、ほとほと手を焼いているかのようでした。
玉川徹氏は国民全員PCR検査するべきという自説に、ぜったいの自信を持っているように見えました。
「感情を揺さぶる強く印象に残る事柄」こそが正しいと信じたい心の仕組みのためです。
多くの場合、それは間違っていることが多いのですが、それを訂正するのは至難のわざです。
なぜならヒューリスティック処理する人は、それ以外の考え方を想像できないのです。
※「自分の経験の及ばない広い世の中の出来事を正確に反映していると無邪気に仮定してしまう」
そしてそれが倫理的道徳心という正義の衣をまとっている時、こういう無邪気な人は「無敵の人」になれるのですね。
これに一般人の苦手な確率に関する話が加わると、「スーパー無敵の人」です。
逆に言うと、ヒューリスティック処理ではなく論理的にものを考え、答えを出すことができれば
あなたは『本当の無敵の人』になれます。
まとめ
1.利用可能性ヒューリスティック恐ろしくて、面白い話
江戸の処刑場の話
2.利用可能性ヒューリスティックあなたのお得になる話
宝くじの話とPCR検査は同じ
3.利用可能性ヒューリスティック新型コロナの場合
テレビ朝日の玉川徹氏みたいな人は確率がわかっていない
第一回はこちら
利用可能性ヒューリスティックとは?M.H.ベイザーマン D.A.ムーア理論解説
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筆者について
長く建設会社に勤めながら瞑想行や神秘業を、科学的に研究する。
建設会社をリストラされたのを機に、中小建設業生き残り研究会を立ち上げ、建設会社の新規事業開発やマーケティングを研究する。
しかし、中小建設業生き残り研究会のDVDの売れ行きに悩み、瞑想中の啓示により変性意識開発のDVDを製作・販売する。
ネット事業に活路を見出し、瞑想による願望実現のホントとウソの研究にシフトしていく。
宗教色を排した、科学的瞑想の研究を勧める。
ヴィパッサナー瞑想はほとんど知らなかったが、本を一冊読んで「自分が行っていたのはじつはヴィパッサナー瞑想だった」と気がつく。
四国の山中に在住、時々東京や大阪でセミナーを開催。
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